ふと気がつけば、隣りにはそいつが当たり前のように居た。

「神尾、聞いてー。UVERworldの新曲をゲットしたんだ。」
「お前、そろそろケータイで曲買うのやめないとヤバイ、とか
言ってなかったか。」
「だって欲しかったんだもん。これだとCDしまう場所に困らないしね。」
「親にケータイ止められても知らねぇぞ。」
「そういう神尾だってまたMD増えてんじゃん。また何かCD買ったでしょ。」
「うるせぇ、俺の勝手だろ。」

俺は言ってMDウォークマンの蓋を閉める。

隣りでは がピコピコとケータイを弄っていた。

   ウォークマン、携帯電話、
  そんでいつもの光景


正直、変というか不思議な話だと思う。
転校してきたとは最初仲がいいとは言えなくて、ひでぇ冷戦状態だった。
転校して来た時、の席は俺の後ろになったんだけど、
話しかけても愛想は悪いし返事はつっけんどん、どう考えても
『近寄るんじゃない。』と言ってるようにしか思えない。
目立った喧嘩をしたことはねぇけど、向こうの態度が
あまりにもひでぇから俺も腹が立ってきて、長い間話すことはなかった。
休み時間になったら俺はの顔を見ないように
他の奴の席へ行くか、教室の外に出た。
はそんな俺を一遍睨んだと思ったら突っ伏して顔を隠し、
ケータイに繋いだイヤフォンから何かを聞いていた。
テストの時、問題用紙や解答用紙を後ろに回す時に
俺はと目が合ったらすぐ逸らした。
も俺と目が合わないように下を向いていた。

すぐ前と後ろの席の間に漂う気まずい空気は多分、
クラスのほかの連中の目にも明らかだったと思う。

だけど、人生って何があるかわかんねぇよな。
あのことがなかったらと話すことなんて一生なかったと思う。

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あの時、俺は困ってた。

「やべぇ、見つからねぇ。」

よりによって一番気に入ってる曲を集めたMDがどっか行った。
どこで見当たらなくなったのかがわからない。
最初は部室を探した。でも狭い部室でMDなんか落ちてたら
仲間の誰かが絶対教えてくれるだろう。
しょうがないから部活終わってから今度は教室を探した。
でも結局見つからなくてその日は諦めて帰った。

もっぺんCDから焼いたらいいだろうって。
冗談じゃない。あのMDに入ってたのは今はもう廃盤に
なったような曲ばっかだ。
近所のにーちゃんに録音させてもらったんだけど、
そのにーちゃんが持ってたのもコピーしたMDで、
当のにーちゃん本人は知らないうちにどこかへ行ってしまった。
(何があったのか俺は知らない)

要は手に入る見込みが今んとこ全然ない訳だ。

見当たらないのはしょうがねぇけど、俺はメッチャショックだった。


凹みながら登校したその次の日だ。

朝練を終えて教室に入った俺は席につくなり
ぐったりしていた。
結局あのMDは見つからない。
今の俺の姿はまるっきし塩をぶっかけられた蛞蝓(なめくじ)状態で、
間抜けにもほどがあったけど
本当に気に入ってるもんがなくなったら
どんな気がするかなんて言うまでもないだろう。

「神尾。」

失意に陥ってる(って言うんだよな)俺に誰かが声をかける。
つっても誰かはわかってたんだけど、まさかと思い込んでたから
最初は何かの間違いかなんて考えた。

「あ、あの、」

顔を上げたらやっぱり がいたから俺は混乱した。
何でこいつが話しかけてくんだ。
今まで人が話しかけたら散々拒絶したくせに。

「何だよ。」

思わず不機嫌な声を出した。
俺は今冷戦中の奴と話す気分じゃねーんだよ。
俺の声には一瞬怯んで次の言葉を言おうとしない。

「用事があんのか、ないのかはっきりしろよ。」

イライラしてきた。何なんだよ、こいつは。
そんな俺の苛立ちに気づいたらしい
鞄から何かを引っ張り出して俺の前に置く。

「こ、これ。」

置かれたものを見てハッとした。

、お前、これ、」
「昨日廊下に落ちてたの拾ったの。確か神尾のだったと思って。」

席につこうとしていたは早口で言う。
(おかげで一瞬何を言ってるのか聞き取れないところだった。)
気のせいか、顔が少し赤いように見える。

つーかどうしよう、無茶苦茶嬉しい。

っ、サンキューッ。」
「い、いや別に。」

ドキマギしたみたいには言った。

「それより、この体勢何とかなんないかな。」

俺はでかい声で礼を言った挙句、思わずに抱きついてしまっていた。
おかげでクラスの連中の注目を思い切り浴びてしまったのは言うまでもない。

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そんで今、俺とは喋りながら時折一緒に帰ったりする仲になったりしている。

「どうよ、この曲。」

新しく買ったという曲をケータイから流しながらが言う。

「うーん、いいけどよ、俺にはちょっと物足りねぇな。
やっぱもっとリズムに乗れねぇと。」
「ダメかー。どうも難しい奴だね、神尾は。テニス部の部長さんも苦労する訳だ。」
「どーゆー意味だよ。」

ムッとする俺にまぁそう言わずに、とはヘラヘラ笑う。

「それより神尾、今度のそのMD何入ってるの。」
「聞いてみっか。」
「うん。」

俺はヘッドフォンを外してにつけてやる。
いつのまにかこれも『いつものこと』になってしまっていた。

「聞こえるか。」
「音でかい。」
「ったく、普段どれだけ小さい音で聞いてんだ。」

俺は舌打ちしてリモコンで音量を調節してやる。

「うん、丁度いい。」

満足そうには言うけど、俺はリモコンの表示を見て
この音量で本当に聞こえているのかと考える。
これもすっかりいつものことになっちまったけど。

当のはリズムに乗ってるのか、体を揺らしながら人のMDを聞いている。
面白いことに、そうなってることを本人はどうも気づいてないらしい。
怒りそうだからいっぺんも言ったことはないけど。

「いいね、これ。今度CD貸してくんない。」
「いいけどよ、どうすんだ、ケータイに入るのか。」
「知らんのかね、最近の携帯電話はパソ使って
CDからの取込も出来るのだよ、少年。」
「お前一体何キャラだよ。」

突っ込むとはまた笑ってごまかした。
ごまかすな、と更に突っ込むとヘッドフォンを強引に装着させられた。

「ありがと、返すね。」
「もっと丁寧にやれよ、セットが崩れるだろうが。」
「その髪型セットだったの。」
「てめぇ。」

結構言いたい放題のにはたまにこめかみがピクつくことがある。
だけど、こいつとこんな風に馬鹿を言いながら過ごす時間は嫌いじゃない。

時々、もっと前からを知ることが出来たらこんな時間を
もっと長く過ごすことが出来たかな、と思う。
ひょっとしたら俺はかなり勿体無いことをしたんじゃないかって。

「神尾、どうしたの。急に黙って。」
「え、あ、何でもねぇ。」
「ならいいけど。それよりさ、こないだのテレビ見た。
新人でなかなかうまい歌手が出てたんだけど…」

喋りだすを見て、俺はとりあえず今があればいいや、と思った。

どうせいつかはこんないつもの光景も
過去のものになるんだから。

そんな柄にもないことを思って、俺はふ、と笑う。

ただもうちょっとだけでも、こんな時間を長く過ごせたらいい。

は俺がそんなことを考えてるなんて
気づいてないらしくて、話したいことを喋り続けていた。

   終わり

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作者の後書(戯言とも言う)

ほにょにょん本舗初、不動峰の神尾少年であります。
最初書きかけていたのが気に入らなくて
いっぺん書き直したら全然違うものになった上、
長さが随分と短くなりました。

何だか意味がわからない文章ですが、要は神尾少年とこんな日常を
過ごせたらいいな、と思ったのと
自分が中学・高校の頃、友人達と面白おかしく過ごしつつ
この時間がずっと続けばいいのにとふと合間に思ったことを思い出して
書いたものです。

神尾少年がそんなことを考えるかどうかわかりませんが
考えてたらいいな、なんぞと思いつつ。

2007/01/28


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